ungavskyのブログ

内省と情熱の間

文京区2つ分の守り

土木行政のスケールに圧倒された話。

 

越流堤というものをご存じか。俺は1年半前(2019年10月)までご存じなかった。

流川市は2本の川に挟まれた土地だ。東に利根川、西に江戸川、さらに言うと2本をつなぐ利根運河なんてのもあり、流川と野田の市境になっている。流川市は3方を水に遮られた土地なわけだ、道理で道が混むわけである。

 

それはともかく越流堤。

こいつは川が増水した時に水を調節池へ流すための堤防である。つまり、そこだけ低く作られた堤防、通過させるのを目的とした堤防。はたしてそれを堤防と言って良いのかという気もするが、そんな議論に興味はない。堤防という物理的な障壁だけでは自然の驚異を押し留められないから作られた逃げ道、そいつが越流堤だ。人類が自然に掲げた白旗とも言えるのではないだろうか。異論は認める。

 

さて、流川市付近の越流堤は3か所、それぞれ菅生調節池、稲戸井調節池、田中調節池に水を誘導する。3つの調節池は菅生が野田市、稲戸井は守谷市、そして田中が柏&安孫子にあり、南北に利根川を東西に東関東自動車道を挟む形で配置されている。

 

流川市の近くにある治水施設といえば首都圏外廓放水路だ。

観光スポットとしても有名なあのダンジョンだが、こいつも調節池に分類される。

中川、倉松川、大落古利根川、18号水路、幸松川という中小河川を相手にした幅78メートル、長さ177メートル、高さ18メートルの堂々たる地下施設である。神殿のような見た目のインパクトもあり、メディアの取材も数知れない映えるスポットだ。ご存知の方も多いだろう。 

そんな首都圏外廓放水路も、利根川の調節池の前では赤子に等しい。

 

 GoogleMapの航空写真で田中調節池を表示してみて欲しい。一面の田畑と、そこを貫いて伸びる車道が見られる。

調節池に普段水はない。

だが、ひとたび河川流量が増えたとあれば、そこは水没する。

航空写真で見た、一面の田畑が、車の行き交う車道が、水に沈む。いや、むしろ水に沈むことを前提で作られている。聴けば行政からは補助金が出ているらしい。

 

 田中調節池の広さは11.75k㎡。

これは、東京都文京区とほぼ同じ広さである。想像いただきたい、文京区全域が利根川の氾濫を防止するために意図的に水没されるという光景を。

ちなみに、前述の菅生調節池、稲戸井調節池も合わせると22.15k㎡で、3つ合わせるとおおよそ文京区2つ分になる。

 

これが治水行政のスケールか。

 

2019年10月の台風で田中調節池に水が入った。

普段、利根川CRから眺めていた一帯は水没していたが、それは想定内の出来事だった。

自然の力で日常が水に沈んだ光景に圧倒され、それは人の知恵による予定調和だったという事実を知って更に圧倒される。

 

土木すげえ。税金はまじめに払って損なしと感じた台風一過のお話である。